さまよえる天使たち

  三、 次の日・夜明け

 ベンチに猫のようにまあるくなって、ごんちゃんが
眠っている。ゴツゴツした岩肌は朝日に映え、夜とは
違う顔を見せている。

 ごんちゃん目覚める。思い出したように、ベンチの
背に手をかけ動かそうとするが、動かない。
諦めて岩に近寄り、平蔵が隠れた辺りを眺めている。
だが、これもなかなか見つからない。

「この辺だったよなぁ… 」  諦らめたのか
踵を返すと
「飯にするかっ 」

 紙袋を抱え、どちらに行こうか迷った末、昨夜とは
逆方向に足を向ける。公園の周りから、人々が、町が、
動き始める音が駆けめぐる。 誰も彼もが忙しそうに
足を運び、公園の外は、まるでコマ送りの写真のよう
に、行き交う大人たちが流れてゆく。澱んだ公園とは
別次元のように。 暫らくして、今度は子供たちの一
団が、またワイワイと流れすぎた。

 また暫らくして、行き交う人影もなくなった頃、と
ぼとぼとした足どりで、ごんちゃんが戻って来た。
 どことなく違う、紙袋がない。目の下が痣のように
くすんでいる。

 ベンチに座り、泣いているようにも見える。 近く
を街宣車が通り過ぎていく… 長い間うつむいてい
たが、何を思いついたか立ち上がり、先程とは反対の
方角に足を向けた。

 お日様が天中に近づく頃、大きな物を引きずりなが
ら戻ってきた。折り畳んで紐を掛けたダンボールと、
黒く大きなゴミ袋を持っている。岩とベンチの辺りを
うろついている。が、決めたようだ。ベンチの脇にダ
ンボールを運び、何かを作り始めた。無心に細工をし
ている。どうも、ねぐらを作るつもりらしい、熱心に
動き廻り鼻歌まで聞こえてくる。

「あんこー 椿はー あんこー 椿は あぁっぁ…」

 遠くサイレンの音。 近くの工場ではラジオ体操が
始まる。見かけより器用なようで、それなりのダンボ
ールハウスが出来てきた。出たり入ったり、時々音楽
に合わせて体操もしている。ひとしきり出入りして、
中に潜り込み横になった。そこから空を眺め、

「おなかすいたなぁ… 」

 ゴソゴソと動いていたが、いつの間にか静かになっ
た。眠りについたごんちゃん。昼間の喧騒などお構い
なしの熟睡。ベンチとは違い、ゆったりと寝返りを打
つたびに、ダンボールハウスが揺れている… 
時折、ごんちゃんの寝言が聞こえる。

「Muuuuu… あっ、課長これです。 えっ、
ボクじゃない! 違いますよ… カアちゃーん 
ごめんなさい … Muuuuu… 」

   お日様が大きく傾いて、街路灯に明かりが灯いた。
すると、岩の一番高い所、そこにひょいと平蔵が顔を
出した、そして滑り台のように滑り降りてきた。
ダンボールハウスに気付き、じっくりと眺めている。

 おもむろにベンチの背に手をかけ、ぐいっと引いた。
ガシャリ! 少し緩んだような機械の音が響いた。
ごんちゃんが目覚めたようだ。

「あっ、平蔵さん 」 
「飯にするか 」 すたすたと歩き始めた
「… めし! 平蔵さーん、待ってくださーい 」

   二人は灯りに誘われる蟲のように、夕暮れの街
に吸い込まれてゆく。マンションの窓に明かりが
灯りはじめる。

遠く暴走族、 パトカーのサイレン。