光と水と大地の詩

藤 浪
伊予の国 藤森神社に藤の木が立っておる
わしより若いきれいな木じゃ それでも三百年は生きておる
わしのような唐変木とちごうて 季節になるといつも
薄紫の花の房が 風に揺れておる わしは藤浪と呼んでおるが
人間たちも大勢出かけて眺めておるそうじゃ

あの藤浪は 人に見られることが大好きなんじゃ
だからこそ いつまでも美しい花を咲かせる
花は短いが 花の精が一年中漂っておる
また来年もと 気張っておるんじゃ
人に好かれて生きることは 楽しいことじゃ
木も花も 生き物は皆そうじゃ わしのような唐変木でもな
わしらは 恋をして花をつける
恋の仲立ちは 小さな鳥や虫たちじゃ 歌も唄えば 夢も見る
四季折々に花が咲くと云うことは
一年中 どこかで恋をしておるという事じゃ
わしの見る夢は この丘に 藤浪と二人で立っておるんじゃ
未来永劫 二人で立っておるんじゃ

わしらの子供たちは 旅をして 自分の丘をを見つけて
そこに森を作るんじゃ 大きな森をな
わしが夢を見ておるとな きまって呑気な風が来るんじゃ
わざわざ起こしに来るんじゃ ひょっとすると
風は 夢を見たことがないかもしれん