光と水と大地の詩

夜 の 虹
お月さんが眠っておる その昔は よく話をしてくれたものじゃ
お月さんの話は いつもこうじゃった

「丘に立つクスノキよ 夜の虹が見えるか?」
いつもこの話で始まるんじゃ わしが見えんと応えると
「ほー そうかそうか まだ見えんか 」と云ってな
それから色々な話をしてくれた 夜の話も昼の話も いつも外国の話じゃった

海の向こうには大きな島があってな
わしなんかよりずっと大きな木が立っておるそうじゃ
その木の根っこは もうほとんど石になっておるそうじゃ
わしらのような大きな木の定めは 石になることなんじゃと
小さな木や草は この大地の土となるんじゃと

わしがこの丘に生まれるずっと前には
その命をまっとうする木がたくさんあったそうじゃが
今は大きくなる前に どこかに行ってしまうんじゃと
いつの間にか おらんようになってしもうたと 嘆いておった
あの頃から お月さんがあんまり喋らんようになってしもうた

わしは待っておるんじゃ

「丘に立つクスノキよ 夜の虹が見えるか?」と お月さんに聞いて欲しいんじゃ
実はな 月のない暁闇の明け方に お天道様がこっそり教えてくれたんじゃ
じゃからわしは お月さんに応えたいんじゃ
「夜の虹が見えたぞ! それは 北と南の果てにだけ見える
オーロラという虹じゃ」とな おぉいお月さん 起きろ起きろ!