光と水と大地の詩

春の便り
わしの立っておるこの丘の西に 大きな湖があるんじゃ
近江の国というてな 海のように大きな湖があるんじゃ
前の晩に その湖に雨が降ると 次の日は決まって
この丘にも雨が降る お天道様は東から登るが
雨も雲も西からやってくる そうじゃ 春の便りも西からじゃのう

この大きな湖のそばに城があるんじゃ
彦根の城と云うてな 外堀の桜が咲くと
この丘にも桜の便りが届くんじゃ 何事も 順番が肝心じゃ
この丘の下の桜も だいぶ大きゅうなった
花曇りの宵には 大勢の人間たちが集まってくるが
みな嬉しそうに春の宵を楽しんでおるようじゃ
「古きも今も花見三昧」人間たちはよっぽど花好きと見える
とりわけ 桜の花にはご執心のようじゃ
桜の花にも わしのような唐変木がおってな
時々秋に花をつけるんじゃ

わしらは お天道様と雨と大地の恵をいただいておる
この恵の順序が 少ぉし狂うてしもうたようじゃ
まあ 間違いは誰にでもあるわい
花の生涯は短いが またあくる年に花をつける
ひとは入れ替わっても 花見は続く
古きも今も花見三昧じゃ