光と水と大地の詩

夜 汽 車>
わしの立っておるこの丘の麓に
人間が住みついて どれくらいになるかのう
むかしは人間など ついぞ見たことがなかったが
近頃の麓は 夜も昼も変わらんぐらい 明るくて喧しい
わしの幹にあいた虚に棲んでおるフクロウも 近頃は
夜が明るくて なかなか獲物にありつけんらしい

夜と云えば ついこの間まで決まって聞こえていたのが
何とのうもの悲しい 汽車の汽笛じゃった

お月さんがぽっかりと浮かんで 夜空が抜けるような
寒ぅい晩には 麓の向こうからこの裏山に ポーっと云う
何とも云えん いい音が聞こえておった
あれは機械の音じゃが 生き物によう似ておる
険しい峠を越えるときには
渾身の力を込めてゼイゼイと息を切らして登っておった
白い息をモクモクと吐いておった
それに比べて 夜の汽車は 心細くて泣いておった
独りぼっちが走っておった

わしのように たった一人で丘の上に立っておると
独りぼっちが身にしみたものじゃ

じゃが 昼間の汽車には 楽しそうな人間の顔が 一杯に溢れておった
人間にとっても 旅はいいもんじゃ