光と水と大地の詩

雪 化 粧
ずいぶんと前の話じゃが、この丘が真っ白になったことがある。
一日中どんよりとした雲が垂れ込めて、呑気な風も寄りつかなんだが、
夕方から降りだした雪が、夜になっても降り止まず、
一晩中降っておった。あんなに降ったのは、わしも初めてじゃったが、
気にもせずに眠っておった。

すると、明け方頃に、横に張り出した太い枝が、
妙に重たくてのう、それで目が覚めてびっくりしたんじゃ。
わしは一年中青い葉っぱをつけておるからなおさらのこと、
雪が一杯に積もっておったんじゃ。
あんなフワフワした雪があれほど重たいとは、思わなんだ。

ここが木の哀しいところなんじゃ。リスは雪にまみれると、
体を器用に揺すって、雪を吹き飛ばすんじゃ。雨の日に、
狸がよ〜く体を揺すっておった。あんなふうに吹き飛ばすんじゃと、
わしもやってみたが、わしの枝はびくとも動かん、どうやっても動かん。
まあ、当たり前の話じゃがのう。

雨にしても降りすぎてはいかん。
雪の多いところに立っておる木は大変じゃのう。
風の便りに聞いた話じゃが、北陸の兼六園と云うところに、
雪吊りと云う物があるそうじゃが、あの時こそは、
わしもこの枝を吊ってもらいたいと思った程じゃ。

まあ、そうこうしておる内に、お天道様が顔を出してくれたもんじゃから、
あっと云う間に解けてしもうた。なにやら名残惜しい雪じゃった。