光と水と大地の詩

渡りの鳥
わしはこの辺りでは 一番大きな枝振りをしたクスノキじゃ
一年中青々とした葉を茂らせておるから 鳥の巣も多いが
これから冬にかけて 渡りの鳥たちが 羽根を休めにやってくる頃じゃ
あのこたちの話はおもしろい 方々の国をまたいで
長い旅を続けておるからのう このわしでさえ知らぬ話を聞かせてくれる
また楽しみな季節がやってくるのう

大昔の話じゃが わしがまだ子供の頃 わしのそばに
大きな栗の木が立っておった その栗の木に聞いた話じゃが
その昔 毎年のように鶴の夫婦が 仲良くこの丘でひと休みしては
北の国へ渡っていったそうじゃ
この丘で休む前は 吉備の国でひと休みしたそうじゃ

その吉備の国にも今のわしのような 大きなクスノキが
丘の上に一人で立っておったそうじゃ
その木にとまって 向かいの山を見渡すと
初めてこの国に着いた気がしたそうじゃ 赤や黄色に色づいた
それはきれいな秋の色を見て 長旅の疲れを癒したそうなんじゃ

砂だらけの大地と 広ぉい海を越えて
吉備の国について やっと休めるそうなんじゃ
その鶴も今はもうおらん 吉備の国も名前が変わってしもうて
今では備前 備中 備後 と呼ぶそうじゃ サルやキジの多い国と聞いておったが
あの鶴の子供たちは 今は何処で休んでおるかのう