光と水と大地の詩

歳をかさねて
ある時 と云ってもずいぶん昔の話になるが
自分が幾つになったか考えてみたんじゃ
奥伊賀に 香落渓という紅葉のきれいな渓があるんじゃ
秋になるといつも 山が赤ぁく染まったと云うて
呑気な風が知らせてくれるんじゃ

梅が咲いた 蝉が鳴いたと 人のことばかり話しておる
呑気な風じゃが 香落渓が赤く染まると
そろそろわしも 冬支度にかかる頃じゃった
あの風の便りを何回 いや何百回聞いたことか

人間は赤子が生まれると 節目ごとに印を付けて
大事に育てて大きゅうなるが わしらの一年は
季節の移り変わるままに任せておる
春から夏は お天道様と 雨水と この大地のおかげで
この幹が一回り太くなる じゃが木枯らしが吹く頃には
ひと休みじゃ また春が来ると自然の恵をいただく
この間に わしの体の中に一本の丸いスジが入るんじゃ

わしの体には何本スジが入ったか見てみたいもんじゃが
数えきれんぐらいの年を重ねても
まだお天道様にはとどかん
あの奥伊賀の香落渓も そろそろ秋の支度の頃じゃのう